あるとき30歳代の女性が、他の歯医者に神経治療をしてもらっている、奥歯の痛みが何ヶ月もとれない、数人の歯医者に診てもらっても一向に治らない、と当院に来院されました。

3本の歯の神経を治療中で、レントゲンでも大きな問題はないのに腫れる時もあるそうで、当院でも治療を開始して2ヶ月たっても症状に変化がなく、相変わらず痛み、時々腫れる状態でした。
こうなると口の中の問題だけでないのは明らかです。

この方はいつも小さい子供と一緒に来られます。離婚されていて、いつもしつけは厳しいが、子供さんを大事にされておられます。
「この子がいるだけで最高に幸せです。何の悩みもないです」「この子さえいれば結婚なんていらない」と毎回のように言われていました。

本当に幸せなら「幸せだ。最高だ。」と毎回言わないはずなのにと、私はいつも感じていました。
ただ幸せと触れ合っているだけのはずなのに。--そのことを告げると急に泣き出され、本当は子供を道連れに、自殺したいぐらい毎日が苦しく辛いことを話しだされました。

その日は治療もせず、お話を聞くだけにしました。
そして、毎日痛みの日記をつけてもらうことにしました。
何時ごろ痛み、腫れが出たのか。その前後の精神状態、食事の時間、お風呂の時間などです。
そして記録した日記は絶対見直さないこと。これは勝手に自己判断しないためです。

数日間の日記を調べると、毎日夜の同じ時間帯に痛みが出ていることがわかりました。
その時間帯の心当たりを詳しく聞いてみると、
子供の時に家族みんなが父親から暴力を受けていて、その父親が帰宅する時間帯だということがわかりました。

「随分昔のことだし、もう父親には何年も会ってないし…そんなことが関係しますか?」と半信半疑でした。そこでまず自分で何も判断しないで、そこから逃げずにその過去をしっかり見つめることをアドバイスしました。

イメージ:こころ人間はすぐ自分に嘘をつきます。忘れたいことはプラス発想して無理やり良いことに変えたり、自分は引きずっているのに、許したつもりに思い込んだり。もう自分は大丈夫!と思っても心の奥には自分が受け入れたくない事実があります。
頭で変えたつもりでも、変わっていなければ隠しただけで何の解決もしていません。

この方にプラス発想も、自分に嘘をつくのも、こう思うようにしよう、とかもやめて、事実としっかり向き合うことをアドバイスしました。

その次に来院されたときには、数ヶ月続いた痛みが全く出なくなった、ととてもうれしそうでした。その後も数ヶ月全く痛みも腫れもなくなりました。